『舞台』

僕らが『試される』場所、『観られている』場所は、至る所に在るけれど…

 

写真は埼玉県久喜市の鷲宮神社。

僕が、いつも機会ある毎にお参りしている場所になる。

 

此処には、『神楽』を舞うための『舞台』がある。

上記は、その写真。

 

当たり前だけれども、誰もが、この『舞台』に立てるわけではない。

 

 

『舞台』に立つ者は、それに見合うだけの『舞』を披露することを求められる。しかも、その『舞』を見ている人達もいる。その『舞』を観ている人達もいる。その『舞』を観ている『人ではない物』もいる。『舞台』に立つ者は、それだけの覚悟がいる。それだけの『舞』を披露するだけの覚悟がいる。

 


 

でもね…『舞台』に立てるから、あるいは、『舞台』に立てたから、初めて見える景色もあるけれどね…

 

其処から見える景色は、其処に立つ者にしか解らない景色…

柔道の『試合』に出る事もまた…

 

僕個人は、柔道の昇段を目指して、昇段に関わる『試合』にはちょくちょく出場をしている。

けれども、『試合』である。相手もいる。しかも、『柔道』だ!相手もまた、自分と同じように稽古を積んでいる。

場合によっては、『試合』で、大怪我をするかもしれない。

「(前略)大怪我をするかもしれない。と描いたが…僕は、実際に2度、この『試合』で大怪我をした。」

要は、柔道で『試合』に出場するという事は、準備として、それだけの稽古を積む事は勿論、其処へ臨む勇気も必要になる。

相手もいる。『勝ち』を、あるいは、『負け』を引き受ける(心で受け止める)覚悟もいる。そういう意味では、『舞台』に立つことと同じである。

「見た目は…僕の場合、もう子供ではないのだけれども…『試合』で『負け』たりすると…未だに涙が零れる。先日も、『試合』に於いて綺麗に畳の上で一回転をして、見事な『負け』をした。その瞬間は、やはり、それなりにキツイ…」

『試合』に出たから、感じる事の出来る物もある。其処からしか見えない景色が確かに在る。

でもね

『試合』は、誰もが望めば出場することが出来る。

努力、それだけの自分が納得できるだけの稽古を積んで、そして、

その『舞台』へ立つ覚悟、あるいは、勇気があれば…

奇跡の果てに…決勝戦へ…

 

僕個人は、柔道の昇段を目指して、昇段に関わる『試合』にはちょくちょく出場をしている。この事実を踏まえると、

僕は、柔道の現役選手であると同時に、現在は、柔道の指導者でもある。

 

ただ…柔道の指導者としてとなると…僕はまだまだ、駆け出しである。そして、柔道の指導者として、他の先生達と共に、

子供達を柔道の大会に参加させる。僕の感情の起伏が激しいこともあるが、やはり、大会に出場をした子供が『試合』で

勝てないでいるのは、自分が『試合』で負けること以上に、何か心に堪える。今年の4月の「第3回ガーヤちゃん杯」は、

子供達と一緒に大会に参加し、高学年の団体チームの監督を務めたが…本当に大惨敗だった。低学年、高学年、の

予選リーグの団体戦、試合にして全16試合…全て「負け」となった。いずれも、名のある強豪の柔道クラブとの対戦と

いうこともあるかもしれないが…同じ小学生同士…彼らが試合で勝てないのは、指導者の責任である。

チームの全ての予選リーグの団体戦の試合が終わり、予選落ちが決定した。全ての試合が終わり子供達を集めて先ず…

「…ごめんな…1つも勝たせてやる事が出来なくて…」

先ず、子供たちに謝った。謝ってから、自然と涙が…悔し涙が、いつものように零れてしまった。
大人の…指導者としての…対応ではなかったかもしれないが…子供たちの試合を通して、僕なりに感じた事、

今後の事を、一通り、子供たちに話した後に、後の話を他の先生達に譲った。柔道の大会だ。相手のチームもある。

また、それぞれの選手のレベルの差もある。それぞれのチームのレベルの差もある。にしてもである。

僕の場合は、このような経験が、僕の感情も加味されて、明確な記憶として残る。

子供同士の柔道の「試合」。でも、相手も、相応の稽古を積んで試合場に上がって来る。

そう、相手が在って、相応の稽古を積んできた相手が在って「試合」が成立する。僕自身も「試合」には、

出場をしているから、本当に、目の前の、1つの試合に於いて勝つことの大変さは、身に染みて解る。

そして、漠然としてである。

「勝たなければ…解らない世界が在る…(勝てたから、立つことを許される「舞台」がその先に在る…)」

子供から、大人まで、一年中至る所で、柔道の大会がある。そして、それぞれの大会を目標にしたりして

参加する選手たちがいる。

小さな街の子供達の活躍を主眼とした柔道の大会。この街には、7つの柔道の道場、あるいは、柔道のクラブが在る。

それぞれの、道場、クラブに所属している子供達が、選手として参加して来る。個人戦に。あるいは、団体戦に。

この時の大会、子供達の団体戦の参加チームは6チーム。7つある団体の内から、6つの団体が

チームを組んで参加して来た。メンバー編成は、大会要項により、小学2年生、3年生、4年生、5年生、6年生

各学年1人、そのクラブのその学年の代表としてエントリーをしてチームが組まれる。

団体戦、6つのチーム、トーナメント方式で、試合が進行する。前年度の成績に依り、前年度の

優勝、準優勝チームがシードとなり、準決勝からの登場となる。ちなみに、当チームは、去年、1回戦で負けている。

団体戦、子供同士の試合。今年はメンバーから逆算をして、4年生、5年生、6年生、の誰かが勝てば、チームとして

勝ち上がる筈…そういう計算が今年は出来た。チームの

2年生の子、3年生の子、同じレベルの大会の個人戦などにおいて1位、あるいは、2位

の活躍をするまでに成長して来た。でも、相手チームの選手もいる。そもそも、子供同士の試合。

「勝ち!」

がどちらに転ぶかは本当に解らない。

 

1回戦…

クラブに在籍している子供の人数の関係もある。相手のチームは、4年生、5年生、6年生の3人でのエントリーだった。

が、相手のチームの5年生、6年生の子は、それぞれ、この時の大会の学年別個人戦の1位と、3位の子…。

ただ、相手チームの4年生の子は、当日のメンバー変更により、急遽エントリーをした子が試合に臨む事になったようだ。

先鋒戦、次鋒戦は不戦勝にて、勝ちが2つ転がり込む。そして、4年生同士の中堅戦…

後で、話を聞いたら、この時試合をした中堅戦の2人は、個人戦でも当たったらしい。

そして、その時は、こっちが勝ったという事だが…

中堅戦、いい試合となった。互いの実力差は殆どない。

「勝ちが…どちらに転がるか…」

だが、同じ学年でも体格差が違い過ぎた。その体格差が試合の後半で現れた。

「一本!それまで!」

個人戦の時と同じように、再び、勝ちがその子へ転がり込む。そして、今回の勝ちは、チーム3つめの勝ちにより、

団体戦の勝ち上がりが、此処で決定をした。

副将戦、選手の荷が重かったかもしれない。ほぼ、秒殺に近い一本負け。

大将戦、試合にはなっていた。けれども…やはり、見ていて格の違いは明らかに在った。試合、中盤過ぎに一本負け。

でも、チームは勝ち上がった。スコアは3-2。

 

2回戦…準決勝。

大会会場に2つある試合場で同時に団体戦の試合が進行する。子供達が、勝ち上がったが故に、

独特な雰囲気を経験する。1回戦で、試合をしなかった、先鋒の子、次鋒の子が、大活躍をする。いずれも、秒殺で

試合を決める一本勝ちだった。特に…次鋒の子の内股…

「(遂に、『試合』で一本勝ちが取れるまでに技が身に付いて来たか…)」

指導者としての感慨に、その子の成長に、刹那の間だけ浸る。そして、中堅戦…

相手のチームの副将は、学年別の個人戦2位の子。大将は、学年別の個人戦1位の子。勿論、試合はやってみなければ

解らないし、さらに、『試合』を通した勝ちがどちらに転ぶかも、本当に解らない事なのだが…

相手の子の実績からすると、副将、大将の子の荷は重い。

決まるのなら、中堅戦でチームの勝ちを決めてしまいたい。そして、その中堅戦…

やはり、今回も良い試合となった。相手の子との実力差は殆どない。どちらかと言えば、相手の子が、どんどん自身の技を

繰り出していた。そして…

「指導!(当チームの中堅の子への指導)」

試合が再開する。相手の子が、再び組み際に直ぐに技を仕掛けて来た。

が…再三にわたり技を受け切れた事が功を奏したのだろうか…相手の技のタイミングも、もう解っていたのだろう。

相手の技に合わせて、思いっ切り後ろへ引き倒すように技を返した。勢いは在ったと思う。しかし、僕の見立ては

「(技あり!)」

だったが、以外にも主審は…

「一本!それまで!」

チーム3つ目の勝ちが再びその子へ転がり込んだ。此処で、チームの勝ち上がりが決まる。

『勝ちに不思議の勝ち在り』

そんな事を感じさせる中堅戦だった。

副将戦、大将戦、やはり荷が重かったか…秒殺ではなかったが、いずれも、一本負けを期した。

副将の子、大将の子は、いずれも1回戦も負けている。その時もそうだったが、今もまた、悔しくてなのだろう。自分の事が

不甲斐なく感じてなのだろう。いずれも泣いていた。

団体戦、お互いに礼をし勝ち名乗りを受けて、試合場から下がって来ても、この2人は泣いていた。

「泣くな!チームとして勝ち上がっている。お前達にも次の試合がある。気持ちを切り替えろ。」

さらにチームは勝ち上がった。スコアは3-2。

 

決勝戦…という『舞台』…

 

大会会場に在る2つの試合場。うち、1つの試合場も観覧席として開放される。そして残った1つの試合場で、

団体戦の3位決定戦が始まった。大会も、大会会場の1つの試合場でのみ行われている『試合』となった。

注目度が全然、今までと違う。

「勝たなければ…解らない世界が在る…勝てたから、立つことを許された「舞台」が此処に在る…」

他のチーム同士の団体戦の3位決定戦を見ながら、ぼんやりと、そんな事を感じていた。去年は、うちのチームは

この舞台にすら立てなかった。

「選手、正面に、礼!」

団体戦の3位決定戦も終わった。大会も団体戦の決勝戦を残すだけとなった。そして、その決勝戦にまでチームは

勝ち上がって来た。会場のアナウンスが流れる。

「団体戦、決勝の審判員を発表します。…」

注目度が、今大会における最高潮に達する。当然と言えば、当然か…。

相手チームは、監督も輪の中に入り、円陣を組んでいた。そして…

「絶対に勝つぞ!!!」

このチームの主将の子の掛け声に全員で

「おう!!!」

と応えていた。そして、相手チームは整列をして待機した。

 

「待て!一度、集まれ!」

整列をして、団体戦に臨もうとした選手の子供達を1度呼び戻す。子供達が、僕の元に集まり、そして、僕の顔を見る。

「チャンスは、必ず来る。そのときに『自分の技』を掛けろ。いいか、『試合』の中で、『自分の技』をだ…」

子供達が、それぞれ頷いたのを確認する。

「行って来い!」

「ハイ!」

子供達が相手のチームから遅れての整列をする。

審判団の合図に依り、今大会の最終戦、子供達の団体戦の決勝戦が始まった。

 

決勝戦…

大会の役員、観覧をしている保護者、そして、この舞台にまで辿り着けなかった選手の子供達、全ての目線が、

1つの試合場に集まる。団体戦は、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将、の1試合ずつの全5試合…その1試合ずつの

全ての『試合』が注目される。

「(…そうか…こういう雰囲気の中で、あいつらは試合をするのか…)」

決勝まで、来たから、獲られた感覚。そして、此処で、最難関の現実もいよいよ突き付けられる。

メンバーからして、試合をして勝つことの可能性があるのは、先鋒と次鋒の2人…後の3人は秒殺されなければ…

試合と呼べたのは…(僕の中でである。)試合と呼べたのは、先鋒戦と次鋒戦の2試合までだった。

実力伯仲の中で…『試合』の『勝ち』は、いずれも相手のチームの子へと転がった。

元々のチームのレベルの差もある。それは、僕も痛いほど自覚をしている。残りの3試合…

中堅戦…副将戦…大将戦…いずれも、秒殺ではなかったが、全ての試合の勝ちは相手のチームの子へ転がった。

「…否…勝つべくして勝ったか…」

相手のチームの、中堅、副将、大将の子らは、いずれも同学年の男子よりも明らかに強い女子選手…

個人個人選手のレベルの差は明らかに在った。彼女らを相手に、秒殺されなかった。それは、中堅、副将、大将を

務めた子供達の1つの進歩の証だろう。予想通り、何れの試合も、確かに『チャンス』は在った。しかし…

何れの試合においても、子供達は、自分の技を仕掛けられなかった。全5試合、全ての試合が終わり、再び整列をする。

スコア0-5

相手のチームの勝ち名乗りを見届けて、子供達が試合場から下がって来て、直ぐに僕の処に集まった。

決勝戦が終了した後は、直ぐに大会の閉会式に入る。その準備もある。係員の人が、こちらに近づいて来るのが僕の視界に

入った。

「…先ず…白帯を返して来い…」

子供達が気付き、後ろに既に係員の人が居る事にも気付き、急いで付けていた

白帯を外して係員の人にそれぞれ手渡す。再び、

子供達が僕の処に集まった。

先に、子供達に言った僕自身の言葉を思い出す。

「チャンスは、必ず来る。そのときに『自分の技』を掛けろ。いいか、『試合』の中で、『自分の技』をだ…」

だが、子供達は『試合』の中で、『自分の技』を此処で繰り出せなかった。

予想通り、何れの試合も、確かに『チャンス』は在った。

これは、僕の中の確信にも近い『感覚』だ。そして…この『感覚』を子供達に伝えきれていなかった。

この『感覚』を伝える事が出来るのか…多分…言葉では伝わらない。本当に、子供達と一緒に稽古をし、乱取りをし、その中で

伝えていくしかない…いつがチャンスなのか…何処がチャンスなのか…そうやってでも…伝わるかどうか…でも、やるしかない。

僕の中の、刹那の中での思考。でも、其処に在る『空間』はとてつもなく大きい。いや…刹那ではなかったのかも…

子供達は、皆、悔しくて泣いていた。子供達の顔を確認してしまったからか…僕も…

「つうー」

涙が一滴、頬を伝る。

「…(勝つ)チャンスは在るのにな…また、一緒に一から稽古をして行こうな…」

ゆっくりと、僕は僕で、僕の中の物を噛みしめるように、独り言のような音で子供達に言葉で伝える。ふと我に返る。

「先生からは、以上だ。この後、お前たちの決勝戦を見届けた他の先生達からも言葉を貰って来い。」

「ハイ!」

僕は、主将の子の名を呼ぶ。

「あつや…」

あつやは、号令を掛けた。

「起立(きょうつけ)…礼!…ありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

 あつやの号令に、子供達の礼に、僕も応える。

「ありがとうございました。」

 

小さな街の、子供達が主役の柔道の大会。今大会の団体戦の出場チームは6チーム。

団体戦は、各学年から1人、2年生、3年生、4年生、5年生、6年生の5人の団体戦。必然的に

5年生、6年生の選手は、ほぼ、そのクラブ、あるいは、その道場の小学生の中で一番強い子らが出場して来る。

僕の元から、走り去ってA先生達の元へ走る子供達…特に6年生、主将のあつや、5年生、副将のゆうご、の後ろ姿を

見ながら…

「…これもまた…経験か…」

音になって呟きが零れた。そう。彼らは、団体戦に於ける試合、全てに負けた。

 

団体戦決勝戦:スコア0-5

『負け!を引き受けて、次の一歩を…そして再び歩み出す…』

子供達と歩む『柔道(この道)』は、これからも続く。

 

takumaroは今日も往く!

 

 

作成期間:2019.10.10~2019.10.31、

2019.10.06…とある街の、ある『舞台』とその『舞台袖』から、見えた景色の記憶を此処に記録として…

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